入管は偽装結婚を疑って審査するので、その嫌疑を晴らす申請であるため、配偶者ビザの審査は厳密になされます。
そこで、配偶者ビザ申請で不許可となりやすい原因にはどのようなものがあるでしょうか。
次の事例はよくある不許可事例です。
1 よくある事例
日本人のAさん(50歳)はタイに赴任中、たまたま入った飲食店で、店のスタッフのタイ人Bさん(25歳)と出会いました。Bさんは2年前まで日本人と結婚していたので、日本語が少し話せたこともあり、Aさんとの会話は進み、連絡先を交換するようになりました。ところが、連絡先を交換した数日後、Aさんの帰任が決まり、Bさんとは離れ離れになってしまいます。
日本に帰国後も、AさんとBさんはLINEでやり取りが続きますが、段々とその頻度は落ちていきました。出会ってから3か月後、Aさんが長期休みの頃に、Bさんが観光で日本に来て久々に会うことになりました。3日間ほど行動を共にした中で、AさんはBさんに惚れ込み、この機会を逃すと二度と会えないかもしれないと思い、帰国最終日に結婚を申し込みました。
Bさんの答えはOKでした。
Aさんは、Bさんの家族にも会ったことはなく、挨拶をしなければと思っていたのですが、Bさんは「挨拶はしなくていい」というし、タイにまで行く時間がなかなか作れないので、うやむやにしていました。
そうしているうちに結婚話はどんどん進み、慣れない結婚手続きに忙殺されながらも、二人は両国で結婚手続きを済ませ、出会って数か月でめでたく夫婦になりました。
結婚が両国で認められたのだから、Bさんの配偶者ビザ取得は簡単だろうと思い、Aさんは会話で出た家族の話などの記憶をたどりながら情報を記載し、配偶者ビザの申請をしました。
3か月後結果が通知され、不許可でした。
2 不許可の原因
この事例には不許可原因が多数ありますが、この事例に含まれているような不許可原因に一つだけ当てはまっても、不許可の確率は格段に上がってしまいます。
不許可になりやすい原因には、事例にはないものも含めると次のものが代表的です。
- 年齢差が大きい
- 交際期間が短い
- 会った回数が少ない
- 連絡頻度が少ない
- 二人の写真が少ない
- 結婚相手の家族のことをよく知らない、会ったことがない
- 離婚歴がある
- 出会い系サイトで知り合った
- 水商売等の風俗関係のお店で知り合った
- 生計面に不安がある
- 共通言語に不安がある
- 難民申請中である
- 在留状況に問題がある
- 申請書類が不正確 など
それでは、これらについて詳しく見てみましょう。
①年齢差が大きい
年齢差がある国際結婚の場合、統計的に偽装結婚の割合が多く、日本人のお金だけが目的または日本で働きたいからとりあえず結婚するのではないかと疑われてしまいます。
特に20歳以上年が離れている場合は、婚姻の信憑性は極めて厳格に審査されます。
ただし、年齢差があっても、メールや通話履歴、写真の存在等から交際を裏付ける証明がしっかりとできれば、当事務所では許可は下りています。
②交際期間が短い
交際開始から結婚までの期間が短いと、偽装結婚の疑いは強くなってしまいます。偽装結婚の場合は、交際が目的ではなく、結婚してビザを取得することが目的だからです。
交際期間が数か月と短い場合は、交際期間中の中身をアピールすることになります。偽装結婚の場合は、ビザ目的とはいえ、好きでもない相手とはあまり一緒にいたくないので、例えば同棲期間があるということは有利なポイントになるでしょう。
③会った回数が少ない
インターネットで知り合って交際を開始した方に多いのですが、会った回数が少なくて結婚される方がいます。数回しか会っていないのに結婚というのは、やはり偽装結婚が疑われてしまいます。
ただし、会った回数が少なくても、毎日のようにテレビ電話を長時間していたなど、会えない理由と愛を育む別の手段を講じていたことを合理的に説明できれば許可はおります。
④連絡頻度が少ない
交際をすると多くのカップルは、連絡のやり取りが増えるでしょう。連絡は1日に100回以上というカップルから、3日で数回というカップルもいますが、会えない状況下で月に数回というのは一般的に少ないと言えるでしょう。実際に会っている回数が多い場合にはそのことを示す資料を提出します。
⑤写真が少ない
一般的に交際中には、いろいろなところに出かけ、デートをするでしょう。その際に、写真を撮る方が多いです。理由書でいくら交際していることを書いても、文章だけだといくらでも嘘を付けてしまいます。したがって、文章を裏付ける写真を添付することが有効です。
また、写真はただ添付すればよいということはなく、写真の質(中身)も問題になります。
写真嫌いという方もいますが、配偶者ビザ取得のためにも、なるべく様々な場所で撮ることをお勧めします。
⑥結婚相手の家族のことをよく知らない、会ったことがない
結婚した場合、相手の家族は親族となるので、一般的には挨拶などを経て結婚します。
家族に紹介しないということは、家族に知られたくない、家族が余計なことを言ってしまう不都合なことがあるのではないかと疑われてしまいます。
したがって、家族に紹介できないケースでは、合理的にその理由を述べる必要があります。
⑦離婚歴がある
偽装結婚をしている人は離婚歴がある人が多いため、離婚歴がある場合も偽装結婚が疑われてしまいます。したがって、離婚歴がある場合には前婚の離婚理由も述べる必要があります。
⑧出会い系サイトで知り合った
出会い系サイトは偽装結婚の温床であったことから、疑いの目で見られてしまいます。しかし、出会い系サイトで知り合ったとしても、しっかりと交際の証明ができれば問題なく許可をもらえるので、専門家に相談しましょう。
⑨水商売等の風俗関係のお店で出会った
入管法改正前は、パブで働く外国人がビザ目的で結婚するケースが非常に多くあったため、出会いについても申請書類への記載が求められます。もっとも、そのような場所で出会っても、合理的・説得的に正当な結婚であることを説明できれば許可はおります。
⑩生計面に不安がある
安定した収入がないと結婚生活を続けていくことは困難です。雇用形態や勤続年数も審査されます。年収が低い場合や無職である場合は、具体的な収入の明細や就職の予定など今後生活を送ることに支障がないことなどを合理的に説明をしていくこと必要になります。
アルバイトや働き始めで課税証明書が発行されないといった方は、専門家に相談することをお勧めします。
⑪共通言語に不安がある
日本語が話せない等、お互いの意思疎通手段に不安があると、結婚生活を継続していくのは難しいでしょう。そのため、偽装結婚が疑われてしまいます。
共通言語が日本語の場合は、日本語検定や留学経験があると有力な証明書類となります。
⑫難民申請中である
難民申請は非常に通りにくく、許可率は数%です。これは、もともと日本が難民の受け入れに消極的ということもありますが、母国に帰りたくないという理由だけで虚偽の難民申請を出す方も多いのが実情です。
したがって、難民申請中の方の中には、難民認定がされないことを見越して、日本人と結婚するビザ目的の方もおり、不許可となりやすいといえます。
⑬在留状態に問題がある
留学生なのに、全然学校に通っていない。納税義務を果たしていない。など、在留状態に問題があると、許可は非常に下りにくくなります。ただし、状況に応じて一度帰国するなどの方法で対処可能な場合があります。
⑭申請書類が不正確
結婚が認められたのだから、配偶者ビザは出せば通るだろうと思われている方もいます。確かに、海外では簡単に通るケースもあります。しかし、日本の入管は、偽装結婚は許さないという観点から厳しく審査をします。
審査では申請書類だけでなく、過去の資料も用いられます。例えば、過去に観光で来日した際に受け答えしたものも記録されており、整合性が求められます。
一度、正確性に疑いが出て不許可になってしまうと、再申請の際にも不正確な部分があるのではないかと疑われてしまうので、注意が必要です。
3 まとめ
不許可になりやすい原因があると、偽装結婚でないことを説明するのに多くの資料と説明が必要になります。また、生計面に不安があるからといって外国人配偶者が働くからというのは、逆に偽装結婚の疑いを強くしてしまうおそれもあります。
このように、不許可になりやすい原因がある場合には、より効果的な資料や説明が求められる一方で、不利となり得るNGワードもあります。
理由書はA4用紙に2~3枚書くのが通常ですが、あまり意味のない事実をただ書いても許可の確率を上げることには繋がりません。許可に繋がる重要な事実を評価しながら書くことが必要になります。
不許可になりやすい原因がある場合には、専門家に相談することをお勧めします。